地図を見るたびに思う。 こんな場所に、人が住んでいたのかと。 新潟と長野の県境、深い山に囲まれた秋山郷。 冬は雪に閉ざされ、かつては陸の孤島と呼ばれた。 そこに湯が湧いている。 車で何度もヘアピンカーブを曲がり、やっとたどり着く谷底の温泉は、来た人にしかわからない静けさがあった。
新潟県と長野県の県境深く、人跡まばらな山襞に抱かれた秋山郷。切明温泉では信濃川支流の河原を掘れば湯が湧き出し、指先に伝わる熱と川霧の冷気が同時に肌を包む。小赤沢温泉の褐色の湯は鉄分を含み、独特の金気の香りが浴室に満ちる。江戸時代に平家落人の末裔が隠れ住んだとも伝わるこの地は、紅葉の季節、ブナとカエデが燃えるように山肌を染め上げる。秋山郷温泉郷を結ぶ道は冬季閉鎖となるため、訪れる者は限られた季節だけに許された静寂を独占することになる。
秋山郷のおすすめスポット
秋山郷温泉 街道の湯|谷底に、ぽつんと明かりがある
苗場山の麓、中津川沿いに建つ日帰り温泉施設。
標高はおよそ800m。
周囲には集落の民家が数軒あるだけ。
コンビニもガソリンスタンドも、もちろんない。
到着したのは夕方4時頃だ。
駐車場に車は3台。
受付で520円を払って脱衣所へ向かう。
内湯は小ぶりで、窓の外に川が見える。
湯温は41℃くらいで、長く浸かっていられる。
ナトリウム・カルシウム硫酸塩泉で、肌がじわっと温まる感じ。
露天風呂に出ると、川の音だけが聞こえる。
鳥の声も、風の音も。
人工的な音が、何もない。
こういう静けさを、ずっと探していた気がした。
湯上がりに飲んだ自販機のコーヒーが、妙においしかった。
切明温泉|川の底から湯が湧く、ここだけの光景
秋山郷の最奥部、長野県との県境近くにある。
舗装路の終点から少し歩くと、中津川の河原に出た。
驚いた。
川底から湯が湧いているのだ。
スコップが数本、無造作に置いてある。
それで砂を掘ると、足元から熱い湯が染み出してくる。
自分で湯船を作る、野趣あふれる露天風呂。
しかも無料。
水着着用が暗黙のルール。
持ってきていて、本当によかった。
川の冷たい水と混ぜながら、ちょうどいい温度を調整する。
これが案外むずかしい。
熱くなったら川に入り、また戻る。
空は山に挟まれた細長い青。
川の流れる音が絶えない。
ここに来るまでの道の険しさが、全部報われた気がした。
夏の週末は人が多い。
平日の午前中が狙い目。
小赤沢温泉 楽養館|山奥に、本物の黒湯があった
長野県栄村、秋山郷の中でも特に奥まった場所にある。
建物は古びていて、観光地っぽさがまったくない。
むしろそれがいい。
入浴料は600円。
脱衣所で服を脱いで、浴室のドアを開けた瞬間、声が出た。
湯が、黒い。
本当に真っ黒に近い、深い茶褐色。
塩化物泉で、なめると少ししょっぱい。
湯口からドバドバと源泉が流れ込んでいて、オーバーフローが止まらない。
かけ流しどころか、溢れっぱなし。
42℃ほどの湯に肩まで浸かると、体の芯から熱くなる。
20分も入ったら、もう限界だ。
湯上がりに畳の休憩室で横になると、外から風の音がした。
そのまま30分、うとうとしてしまった。
この温泉のために、もう一度ここへ来たいと思っている。
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秋山郷への行き方
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