三重県の南部、リアス式海岸の奥にひっそりと存在する漁村・古江。 観光地図にほとんど載っていない。 それなのに、一度行った人が「また行きたい」と言う場所だ。 静かな入り江に漁船が浮かんで、カキ棚が海面を埋め尽くしている。 あの風景を見た瞬間、ここに来た意味がわかった気がした。
古江のおすすめスポット
古和浦港|時間が止まったまま、海だけが動いている
朝8時の古和浦港。
人影はほとんどない。
漁師が黙々と網を手繰り寄せているだけだ。
港のコンクリートに腰を下ろして、しばらくそこにいた。
エンジン音と、波の音と、カモメの声だけ。
観光地にいるのに、観光している感覚がまったくない。
ここは「見にくる場所」じゃなくて「いる場所」だ。
港の規模は小さい。
車で10分も走れば全体が把握できる程度だ。
でもその小ささが、余白を生んでいる。
地元の人に話しかけたら、当たり前のように話してくれた。
「ここは冬がいい。カキが一番うまい」と笑いながら。
午後になると光が変わる。
西日が水面に当たって、港が金色になった。
その15分間だけで、ここに来た価値があった。
カキ養殖場|海の上に広がる、もうひとつの田んぼ
古和浦の海を上から見ると、カキ棚が隙間なく並んでいる。
まるで水上の畑だ。
地元の養殖業者に声をかけたら、作業場を少し見せてもらえた。
収穫されたカキは1個500円前後で直売していることもある。
その場で食べると、磯の香りが鼻に抜けた。
ここのカキが旨い理由を聞いた。
「山の栄養が川を通って海に来るから」と即答だ。
リアス式海岸の地形が、プランクトンを育てる。
そのプランクトンがカキを太らせる。
理屈を聞いてから食べたら、さらにうまかった。
養殖棚の数は数えきれないほどある。
12月〜2月が出荷のピーク期で、この時期は港が一番活気づく。
防波堤の端まで歩いて、海の真ん中にいる気分を味わった。
足元の海は、驚くほど透き通っている。
漁村風景|路地の奥まで、生活が詰まっている
古江の集落は、山と海の間に張り付くように建っている。
道幅は車1台分しかない。
それでも人が暮らしている。
路地に入ると、網が干してあった。
猫が段差の上で丸くなっている。
おばあさんが、縁側でお茶を飲んでいた。
「どこから来たの」と聞かれた。
東京と答えたら、少し驚いた顔をされた。
「こんなとこまで」と笑いながら、お茶をすすめてくれた。
集落の高い場所から海を見下ろすと、全部が一望できる。
入り江、カキ棚、漁船、山の稜線。
その構図が、絵みたいにきれいだ。
夕方17時すぎ、西日が集落全体を染めた。
古い木の壁が橙色になった。
その色が消えるまで、その場を動けない。
三重県にこんな場所があることを、なぜもっと早く知らなかったんだろう。
モデルコース
古江への行き方
HUB CITY
名古屋(拠点都市)から行ける旅先を見る →