北海道の山奥に、その山はある。 クテクンベツ岳。 名前を声に出すだけで、どこか遠い場所へ連れていかれるような気がした。 標高は高くない。 でも、冬のあの稜線に立ったとき、世界がぜんぶ白くなっている。 音がない。 風だけがあった。 ここに来るために、長い道を歩いた。それで十分だ。
クテクンベツ岳のおすすめスポット
クテクンベツ岳 登山口|静寂は、ここから始まる
登山口に着いたのは朝7時前だ。
気温はマイナス12度。
車から降りた瞬間、空気が刺さるように冷たかった。
雪は深い。
トレースがあるかどうか、その日の運次第だ。
この日はない。
ラッセルしながら進む。
ひざまで埋まることもあった。
誰もいない森の中を、ただ歩く。
シラカバの木が白く並んでいた。
葉はない。
でも、枝の隙間から差し込む朝の光が、雪面をオレンジに染めている。
「なんでこんな場所に来たんだろう」と思う瞬間が、必ずある。
足が重くなったとき、息が上がったとき。
それでも足は前に出る。
なぜかはわからない。
登山口から稜線まで、約3時間かかった。
コースタイムより長い。
雪が多い冬はそういうものだ。
クテクンベツ岳 稜線|白い世界に、ひとりで立った
稜線に出た瞬間、風が強くなった。
ゴーグルが曇る。
手袋の中の指先が、じわじわと冷えてくる。
でも、目の前の景色に息が止まった。
日高山脈が、ずらりと並んでいた。
左にカムイエクウチカウシ山。
右に幌尻岳。
空は青すぎるくらい青かった。
雲は一つもない。
ここまで4時間歩いた。
その全部が報われる景色だ。
稜線は風が強い。
立っているのがやっとの瞬間もある。
それでも動けない。
もったいなくて。
写真を撮った。
でも、あの白と青の比率は、画面には入らない。
肉眼でしか、あの広さは受け取れない。
山頂には標識がある。
小さくて、雪に半分埋まっている。
それがかえってよかった。
ひっそりしていて、正直な山だ。
下山後の日高町|体が冷えたら、これしかない
下山したのは15時を過ぎている。
足はガクガクで、手袋を外す力もない。
日高町の市街地まで車で約30分。
そこに小さな温泉施設がある。
地元の人しかいない。
観光客向けの演出は何もない。
それがいい。
湯船に入った瞬間、指先がじんじんと痛くなった。
凍りかけた体が、ゆっくり戻ってくる感覚。
この痛みが好きだ。
生きてる感じがする。
風呂上がりに食べた豚丼が、異常においしかった。
味が特別なわけじゃない。
山の後だから、全部おいしいんだ。
日高のコンビニで買った肉まんも、なぜか感動した。
冬山は消耗する。
でも、あの稜線の白を見たら、また来たい。
そういう山だ。
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クテクンベツ岳への行き方
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