名前からしてただごとじゃない。 コイカクシュサツナイ岳。 アイヌ語由来のその響きは、どこか警告めいている。 標高1,721m。日高山脈の奥深く。 冬に踏み込む人間は、ほとんどいない。 だからこそ行きたかった。 誰の足跡もない雪の稜線が、そこにあると知っていたから。
コイカクシュサツナイ岳のおすすめスポット
コイカクシュサツナイ岳登山口|ここから先、文明との縁が切れる
林道ゲートから登山口まで、冬は約7km歩く。
スノーシューを履いて、黙々と進む。
誰とも会わない。
音がない。
自分の呼吸だけが聞こえる。
登山口に着くまでに、すでに2時間近くかかった。
気温はマイナス15度。
手袋を外すと、5分で感覚がなくなる。
「これが本当のスタートか」と思った瞬間、少し笑えた。
沢沿いのルートは雪に埋まって、どこが道かわからない。
GPSと勘と、踏み固まった雪の硬さで判断する。
それが怖くもあり、妙に楽しくもあった。
日高の山は、甘えを許さない。
でもその厳しさが、ここに来る理由でもある。
コイカクシュサツナイ岳稜線|風が人を選ぶ場所
稜線に出た途端、世界が変わった。
遮るものが何もない。
風速20m近い風が、横から来る。
立っているのがやっとで、一歩踏み出すたびに体が流される。
でも振り返ると、日高の山並みが白く連なっている。
カムエク、ペテガリ、ソエマツ。
名前を知っているピークが、全部見える。
「ああ、ここはそういう場所か」。
山頂標識は雪に半分埋まっている。
気温はマイナス22度。
シャッターを押す指が動かない。
それでも10分、稜線に立ち続けた。
もったいなくて、降りたくない。
冬の日高を知りたいなら、この稜線に立つしかない。
写真では絶対に伝わらない、あの重力がある。
下山後の静内温泉|体が溶けるとはこのことだと知った
下山してゲートに戻ったのは、午後4時を過ぎている。
行動時間11時間。
体の芯まで冷えている。
指も、つま先も、思考も。
静内温泉まで車で40分。
その間、ヒーターを全開にしても震えが止まらない。
温泉に入った瞬間、声が出た。
痛みと温かさが同時に来る、あの感覚。
料金は600円。
シンプルな湯船と、窓の外の雪景色だけ。
それで十分だ。
隣に地元のおじさんが入ってきて、「どこ行ってきたの」と聞かれた。
「コイカク」と答えたら、「あそこ冬に行くの」と一言。
それだけ言って、黙って湯に浸かっている。
その沈黙が、なんか好きだ。
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コイカクシュサツナイ岳への行き方
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