北海道の中心部に、人を寄せ付けないような山がある。 トムラウシ山、標高2141m。 「北海道の屋根」と呼ばれるその頂へ、冬に向かった。 麓に着いた瞬間、空気が変わった。 音が消えた。 ここは、そういう場所だ。
トムラウシ山のおすすめスポット
トムラウシ山登山口|夜明け前、−15℃のスタートライン
朝4時30分、トムラウシ温泉登山口に立った。
気温は−15℃。
息が白い、というより固まる感じがした。
ヘッドライトの光だけを頼りに歩き始める。
雪はキュッキュッと鳴く。
誰もいない。
足音だけが響く。
ここから山頂まで、片道約10km。
標準的なコースタイムで6〜7時間かかる。
冬山なら、それ以上を見ておく必要がある。
引き返す勇気が試される山だと、後で思い知った。
天候が崩れる速さが、平地の感覚とまるで違う。
午前中は晴れていた空が、昼には猛吹雪になった。
それでも、樹林帯を抜けた先の白い稜線を見たとき、
「ここまで来た」という感覚が、ぐっと胸に来た。
美しいとか、きれいとか、そういう言葉じゃない。
ただ、圧倒された。
コマドリ沢〜南沼キャンプ指定地|雪原の中で、自分の小ささを知る
コマドリ沢を越えると、世界が一変した。
木がなくなる。
空が、いきなり全部見える。
360度、白と青だけになった。
南沼のキャンプ指定地は、山頂まで残り約1km地点にある。
夏は幕営地として使われるが、冬はただの雪原だ。
テントを張る人の痕跡すら、雪の下に消えている。
ここで風が出てきた。
体感温度が一気に下がった。
手袋の上から、指先が痛くなるのが分かった。
それでも、振り返ると大雪山の峰々が並んでいた。
旭岳、忠別岳、石狩岳。
全部、見える。
地図で見ていた山の名前が、
実際にそこに立つことで、初めてリアルになった。
この景色は、ここまで来た人にしか見えない。
それだけは、確かだ。
トムラウシ温泉 東大雪荘|山から下りた夜、湯に沈む
山から下りて、東大雪荘に飛び込んだ。
全身が、もう言葉を話せないくらい疲れている。
日帰り入浴は14時〜20時、料金は700円。
露天風呂があった。
外は−10℃だ。
湯に入った瞬間、声が出た。
あったかい、じゃなくて「熱い」。
それくらい、体が冷え切っている。
露天から見える空は、もう星だらけだ。
こんなに星を見たのは、いつぶりだろう。
宿泊すると夕食に鹿肉が出る。
エゾシカの煮込みが、ここまでの疲れにちょうどよかった。
1泊2食付きで1万5000円前後。
山の中のこの立地で、この値段は納得しかない。
翌朝、また山を見た。
雪をかぶったトムラウシ山頂が、遠くに見える。
もう一度登るか、と正直迷った。
それくらい、引力のある山だ。
モデルコース
トムラウシ山への行き方
HUB CITY
札幌(拠点都市)から行ける旅先を見る →