地図を見たとき、正直なところ迷った。 パンケヌーシ岳。 読み方すら知らない。 アイヌ語で「川下の山」を意味するその名前が、なぜか頭から離れない。 冬の北海道、積雪1メートル超の稜線。 トレースのない雪原に、自分の足跡だけが続いていく。 その静けさが、ずっと忘れられない。
パンケヌーシ岳のおすすめスポット
パンケヌーシ岳登山口|夜明け前、誰もいない林道に立つ
朝4時半に起きた。
気温はマイナス18度。
車のドアが凍って、少し手間取った。
登山口に着いたのは6時ごろ。
当然、他に車はゼロ。
林道に踏み跡はなく、新雪が一面に広がっている。
ヘッドライトの光の中で、スノーシューを装着する。
その音だけが、やたらと大きく聞こえる。
最初の1時間は樹林帯の中を進む。
エゾマツとトドマツが交互に現れ、枝に積もった雪が時々どさっと落ちてくる。
顔に当たって、思わず笑ってしまった。
標高が上がるにつれて風が出てくる。
それが合図だと分かった。
稜線が近い。
樹林を抜けた瞬間のことは、今でもはっきり覚えている。
視界が一気に開けて、真っ白な尾根が空に向かって伸びている。
声が出ない。
正確には、出すのを忘れた。
パンケヌーシ岳山頂(1,363m)|風が強くて、5分しかいられない
登り始めて約5時間。
山頂に着いたのは午前11時過ぎだ。
稜線に出てからの最後の登りがきつかった。
傾斜が急で、スノーシューのかかとが滑る。
3歩登って1歩下がる感覚。
それでも頂上に立ったとき、全部どうでもよくなった。
360度、遮るものが何もない。
日高山脈が南に並んでいた。
トムラウシ方面の白い稜線が、雲の切れ間から見える。
大雪山系が北西に霞んでいた。
ただ、風が強すぎた。
体感温度はおそらくマイナス25度を超えている。
ゴーグルの内側が曇り、写真を撮る指が痛かった。
5分が限界だ。
本当に5分しかいられない。
それで十分だ。
あの景色は、5分で一生分に値する。
下山後の南富良野|体が動かなくても、ラーメンだけは食べられる
下山したのは午後4時近かった。
足が棒になっている。
というより、足があることを忘れている。
南富良野の市街地に出て、目についた食堂に入った。
暖房が効いていて、体の芯から溶けていく感覚。
味噌ラーメンを頼んだ。
850円。
これがうまかった。
あの寒さの後に飲む熱い汁は、反則だ。
食堂のおばさんに「どこ行ってきたの」と聞かれた。
「パンケヌーシ岳」と答えたら、「ああ、あそこ行く人、たまにいるねえ」と言われた。
たまに、という感じが正直でよかった。
南富良野は小さな町だ。
コンビニは1軒しかない。
でも空が広い。
夜、宿の窓から星を見たら、数えるのを諦めた。
それくらい多かった。
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パンケヌーシ岳への行き方
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