主府久という地名を、最初は読めない。 「しゅぷく」と知ったのは、現地に着いてからだ。 北海道の山の中に、こんな場所があったのか。 白い稜線が空に溶けていく瞬間を見た時、 ここまで来た理由が、やっと腑に落ちた。
主府久のおすすめスポット
主府久山頂|雲の上に立つ、それだけのことだ
登り始めたのは朝7時。
気温はマイナス12度だ。
息が白く、ゴーグルの内側が曇る。
アイゼンが雪を踏む音だけが聞こえる。
山頂まで約2時間半。
距離にして往復8キロほど。
数字だけ見れば、たいしたことない。
でも冬の主府久は、まるで別の惑星だ。
頂上に立った瞬間、言葉が出ない。
360度、白しかない。
雲海が眼下に広がって、
遠くの山々が島のように浮いている。
風が強くて、立っているのがやっとだ。
それでも、動けない。
5分、10分、ただ見ている。
こういう景色を前にすると、
写真を撮るのを忘れる。
カメラを出したのは、帰り道だ。
雪原トレッキングルート|足跡は自分でつけていく
山頂まで行く体力も時間もない、という日もある。
そういう時は、麓の雪原を歩いた。
トレッキングコースの入口は、駐車スペースから徒歩3分。
標識はシンプルで、迷わない。
スノーシューを借りると、ふかふかの雪の上を歩ける。
レンタルは1日2,500円だ。
持参できるなら、した方がいい。
歩き始めて10分で、街の気配が消えた。
木の影が雪に落ちて、青白く見える。
シンと静かで、風の音だけがあった。
こういう静けさは、ここでしか知らない。
都市の「静か」とは、まるで違う。
本物の無音に近い何かがあった。
コース全体で約1時間半。
途中に休める東屋が1か所あった。
お湯を沸かして、コーヒーを飲んだ。
最高だ。
麓の休憩小屋|あの豚汁の温度を忘れられない
下山してから気づく。
自分がどれだけ冷えていたか。
登山口から100mほど戻った場所に、小さな休憩小屋がある。
地元のおじさんが一人で切り盛りしている。
豚汁が400円。
おにぎりが150円。
何も迷わず両方頼んだ。
豚汁の器を両手で持った瞬間、
手の感覚が戻ってきた。
ああ、生きてる。
おおげさでなく、そう思った。
具だくさんで、味噌が濃い目で、
ごぼうと根菜がたっぷり入っている。
東京で飲む豚汁とは別物だ。
小屋の中には薪ストーブがあった。
濡れた手袋をストーブの前に置いて、
30分ほどぼんやりしている。
この時間が、旅で一番好きな時間だっただ。
絶景より、あの豚汁の温度の方を、よく覚えている。
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主府久への行き方
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