旭川から車で1時間半。 道が細くなり、山が深くなり、気づいたら別世界に入っている。 天人峡温泉は、そういう場所だ。 忠別川が削り出した柱状節理の断崖が、温泉街をぐるりと囲んでいる。 冬に来ると、その迫力が倍になる。 雪と岩と、湯けむりだけがある。
大雪山国立公園の西麓、忠別川沿いに刻まれた天人峡は、柱状節理の断崖が幾重にも連なる峡谷だ。天ノ沢滝の轟音が渓谷に響き渡り、飛沫が顔にかかるほど近くまで迫ることができる。天人峡温泉散策路を歩けば、アイヌ語に由来する地名が刻まれた標識が随所に現れ、この土地に根づく長い歴史を感じさせる。明治時代から湯治客が絶えない天人峡温泉の湯は無色透明で肌に優しく、渓谷美を眺めながら静かに浸かる時間は格別だ。冬には雪で覆われた岩肌と湯気が交錯し、幽玄な気配が峡谷全体を包み込む。
天人峡温泉のおすすめスポット
天人峡温泉|断崖に抱かれながら、湯に沈む夜
チェックインしてすぐ、湯へ向かった。
宿の内湯より先に、外が気になった。
露天風呂から見上げると、高さ100m近い柱状節理の断崖がそこにある。
冬だ。
崖は雪をかぶり、空は暗く、湯気だけが白く揺れている。
あまりにも静かで、声を出すのがはばかられた。
泉質は硫黄泉と食塩泉が混ざった複合泉。
pH8.2のアルカリ性で、肌がじんわりなめらかになる感覚がある。
温度は41〜42℃ほど。
長く浸かっていられる温度だ。
深夜0時近くまで入れる宿が多い。
誰もいない深夜の露天風呂で、断崖と二人きりになった。
あの静けさは、正直なところ怖かった。
でも出られない。
そういう引力が、この湯にはある。
羽衣の滝|冬、凍りかけた滝を見に行く
天人峡には、日本の滝百選に選ばれた「羽衣の滝」がある。
落差270mと言われている。
数字だけ見てもピンとこなかったが、実際に見て息が止まった。
冬の羽衣の滝は、半分凍っている。
白い岩肌に、氷の柱と水が混在している状態だ。
アイスブルーの氷が光を受けてきらきらしている。
夏とは完全に別の滝だ。
温泉街から歩いて約15分。
遊歩道は整備されているが、冬は凍結箇所がある。
軽アイゼンを持っていくべきだった、と後悔した。
滝の前に立つと、水しぶきが冷気と混ざって顔に当たる。
マイナス10℃の朝だ。
それでも、10分以上立ち尽くしている。
圧倒されると、寒さを忘れるらしい。
帰りにすぐ温泉に飛び込んだのは言うまでもない。
天人峡の冬景色|誰もいない、それが正解だ
正直に言うと、天人峡は冬にほとんど人がいない。
ピーク時の面影があちこちに残っている。
廃業した旅館の建物が、雪に埋もれている。
さびしいかというと、そうでもない。
人の少なさが、この場所の本質を際立たせている。
柱状節理の断崖は、誰にも邪魔されずに見られる。
雪の重みで折れた木が、道に横たわっていたりする。
手が入っていない自然の気配がそこらじゅうにある。
夕方4時を過ぎると、谷が暗くなる速度が早い。
断崖が影になって、温泉の湯けむりだけが光る時間帯がある。
15分くらいの出来事だ。
その15分を見るためだけに、また来てもいい。
冬の天人峡は、来る人を選ぶ。
選ばれた人だけに見せる顔がある。
そう感じた2日間だ。
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天人峡温泉への行き方
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