靴幅山、という名前を初めて聞いたとき、思わず声に出して確認した。 靴の幅ほどしかない尾根があるらしい。 北海道の山の話だ。 冬に行った。 積雪期だというのに、足を向けてしまった。 そこには、言葉でうまく説明できない種類の怖さと、美しさがあった。
靴幅山のおすすめスポット
靴幅山|尾根の上に立つと、左右が一気に落ちていく
登山口から歩き始めて、約2時間半。
標高はそれほど高くない。
でも、雪がすべてを変える。
稜線に近づくにつれ、道が細くなった。
細い、というより、消えかけている。
両側は急な斜面で、雪がついている。
踏み外したら、止まらないだろう。
尾根に出た瞬間、風がきた。
横から、容赦なく。
「靴幅」というのは比喩ではない。
本当に、そのくらいしかない。
左を見ると白い斜面が落ちていく。
右も同じだ。
怖かった。
でも、その怖さの先に山頂がある。
立ったとき、周囲360度が雪景色だ。
どこまでも白くて、静かで、人の気配がまったくない。
あの静寂は、今も耳に残っている。
登山口〜取り付き|静かすぎる雪の森を歩く
朝7時に登山口の駐車スペースに着いた。
他に車は1台だけ。
森の中は、風の音すらない。
足を踏み出すたびに雪が鳴る。
その音だけが続く。
樹林帯の中は意外と歩きやすい。
トレースが残っていれば、ルートは追える。
でも、前日に雪が降っていたら話は別だ。
この日は運よく先人のあとがあった。
約1時間で森を抜けると、視界が開けた。
空が青かった。
北海道の冬の空は、本州のそれより少し暗い青をしている気がする。
稜線が見える。
まだ遠い。
でも、確かにそこにあった。
このルートの良さは、森歩きと稜線歩きの両方が味わえること。
静けさと緊張感、どちらもある。
山頂からの眺め|風が強くて、5分しかいられない
山頂に立ったのは、11時20分だ。
登山口から約4時間。
風速は体感で15m以上はあった。
立っているのがやっとだ。
カメラを出した。
手袋をしたまま、なんとかシャッターを押した。
見えたのは、山と雪原と、はるか遠くに海。
北海道の冬の水平線は、空と色が混ざって境界がよくわからなくなる。
どこまでが陸で、どこからが空なのか。
そういう曖昧さが、妙に心地よかった。
5分で限界だ。
寒さというより、風にやられた。
下山を始めた。
でも、あの5分間で見たものは十分だ。
むしろ、あれ以上いたら何かが薄れただ。
短くて、鮮烈なほうがいいこともある。
山頂は、そういう場所だ。
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靴幅山への行き方
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