名前を声に出すだけで、すでに遠い場所に来た気がする。 エサオマントッタベツ岳。 標高1,902m。日高山脈の奥深くに静かに鎮座する山だ。 冬、この山は雪と風に閉ざされる。 トレースもない。看板もない。 あるのは白と青と、自分の足跡だけ。 そういう場所が、確かにまだ北海道に残っている。
エサオマントッタベツ岳のおすすめスポット
エサオマントッタベツ岳アプローチ|林道の先に、人の気配が消える
登山口に着いたのは朝5時半。
まだ暗かった。
気温はマイナス12度。
息を吸うと鼻の中が痛い。
ここへのアクセスは容易ではない。
帯広から車で約2時間。
中札内村を抜け、林道をさらに走る。
冬季は林道が閉鎖されることが多く、
ゲートから数キロを歩いてスタートになる場合もある。
その「歩き始め」から、もう別世界だ。
シュカブラが風の形を地面に刻んでいる。
踏み跡はない。
GPSと地図を手放せない。
日高の山は「整備された登山道」という概念が薄い。
ルートファインディングが登山の一部だ。
それを楽しめる人じゃないと、正直きつい。
でも、だからこそ人が少ない。
6時間歩いて、誰とも会わない。
そういう静けさを、ずっと探している。
稜線の雪景色|ここまで来た人間だけが見られる白
稜線に出た瞬間、風が変わった。
体ごと持っていかれそうな横風。
体感気温はゆうにマイナス20度を下回っている。
でも、目の前に広がったのは。
言葉にならない景色だ。
白い稜線が波のように続いている。
雪煙が舞い上がり、光の中で消えていく。
南には幌尻岳。北には芽室岳。
日高の主脈が、全部見える。
ここまでのコースタイムは往復で約10〜12時間。
アイゼン、ピッケル、ビーコン必携。
冬山経験のない人が来ていい山ではない。
はっきりそう思った。
でも経験値のある人間にとっては、
これ以上の場所が日本にどれだけあるだろう。
ガイドブックに載らない理由がある。
そして、だから来る価値がある。
頂上に10分いた。
写真を撮る余裕すらない。
風が全部、持っていくから。
下山後の中札内村|山と対照的に、温かい時間がある
下山してから気づいた。
足が震えている。
寒さじゃなくて、達成感で。
中札内村に戻ると、まず温泉に飛び込んだ。
「中札内農村休暇村フェーリエンドルフ」の温泉だ。
日帰り入浴が大人700円。
湯船に沈んだ瞬間、声が出た。
その後、村内のジンギスカン店で夕食。
日高で育った羊の肉は、臭みがない。
焼きながら、今日の山を思い出した。
中札内は「北海道らしい北海道」が残っている場所だ。
広い空、農地、静かな夜。
観光地化されていない分、
本物の北海道の時間が流れている。
山から下りてくると、
普通の温かさのありがたさがわかる。
そういう体験を、ここはセットで連れてきてくれる。
モデルコース
エサオマントッタベツ岳への行き方
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