登山道のない山がある。 地図に名前だけ刻まれた、静かな頂。 奥徳富岳は、北海道・増毛山地の奥に潜む標高1,345mの山だ。 ルートは自分で切り開くしかない。 それでも、冬に訪れる人が後を絶たない理由がある。 雪に覆われた稜線の向こうに、誰も手を加えていない景色が待っている。
奥徳富岳のおすすめスポット
奥徳富岳アプローチ|林道の終わりから、すべてが始まる
車を止めた場所から、すでに別世界だ。
冬、除雪は途中で終わる。
そこからスキーかスノーシューで歩き出す。
林道を抜けるまで約2時間。
音がない。
風の音だけが、たまに木々を揺らした。
トレースはない。
前日に雪が降ったのか、真っ白なキャンバスに自分の跡だけが続く。
それが少し誇らしく、少し怖かった。
標高を上げるにつれ、木が低くなる。
1,000mを超えたあたりで、視界が開けた。
増毛山地の稜線が、波のように並んでいた。
ここまで登山口から約4〜5時間。
コースタイムは自分の脚と雪の状態次第。
ガイドなしで入る場合、地形図とGPSは必須だ。
山頂の眺望|360度、誰もいない白い世界
頂上に立った瞬間、声が出ない。
東に暑寒別岳。
北に群別岳。
晴れた日は日本海まで見渡せる。
その日の気温はマイナス12度だ。
手袋を外してカメラを構えたら、30秒で指が痛くなった。
それでもシャッターを押し続けた。
山頂に標識はない。
ケルンがひとつあるだけ。
GPSを確認して、ここが頂上だと確かめる。
誰かが整備したわけじゃない。
案内板も、売店も、何もない。
あるのは雪と風と空だけだ。
滞在できたのは15分ほど。
稜線の風が強くなってきた。
名残惜しいけれど、下山を急いだ。
冬山の鉄則は、山頂に長居しないこと。
増毛町の温泉と宿|山から下りたら、ここへ直行する
下山後、体の芯まで冷えている。
増毛町まで戻って温泉に入った。
「暑寒荘」は日帰り入浴が可能だ。
料金は500円。
17時までなので、早めに下山が必要。
湯船に体を沈めた瞬間、全身の緊張がほどけた。
今日歩いた稜線を思い出した。
あの白い景色は、あの疲れがあるから美しかった気がした。
増毛町には「増毛駅」がかつてあった。
2016年に廃線になった留萌本線の終着駅。
今は駅舎だけ残っている。
夕暮れに立ち寄ると、少し胸が痛かった。
夕食は町の食堂でタコの刺身を頼んだ。
増毛はタコとウニの産地だ。
肉厚で、甘かった。
山の疲れが、おいしさに変わった夜だ。
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奥徳富岳への行き方
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