稜線に出た瞬間、風が止まった。 そこにあったのは、白く塗り潰された世界だ。 戸蔦別岳(とったべつだけ)。 標高1,959m。日高山脈の奥深くに刺さるように立つこの山は、冬になると別の顔を見せる。 アクセスも甘くない。装備も気合いもいる。 それでも、あの稜線に立ちたくて、また来てしまう。
戸蔦別岳のおすすめスポット
戸蔦別岳 冬の登頂ルート|6時間かけて辿り着く、白い頂
ヘッドランプを点けて歩き始めたのは朝5時半だ。
ぬかびら温泉郷側からのアプローチで、林道歩きだけで1時間以上かかる。
雪は締まっていたが、ラッセルが必要な箇所もあった。
アイゼンとピッケルは必携。
これは脅しじゃなくて、本当に必要だ。
稜線手前の急登で足が止まる。
傾斜35度はある。
キックステップを刻みながら、ただ上だけを見た。
頂上まで約6時間。
そこに広がっていたのは、幌尻岳へと続く日高の稜線。
ずっと続く白いうねり。
言葉を探したけど、出てこない。
下山は4時間。
駐車場に戻ったときにはもう暗くなりかけている。
膝がガクガクで、靴を脱いだら指が真っ白になっている。
それでも翌朝、「また行こう」。
幌尻岳との稜線展望|日高の「背骨」が、全部見える
戸蔦別岳の山頂から南を向くと、幌尻岳が目の前に立ちはだかる。
直線距離にして約2km。
でも冬に縦走できる人間はほとんどいない。
その幌尻岳への稜線が、信じられないほど美しかった。
雪庇が刃物みたいに張り出して、風が吹くたびに煙が上がる。
青空と白い稜線の境界線が、くっきりと引かれている。
気温はマイナス18度。
風速は10m以上あった。
それでもカメラを出してシャッターを押し続けた。
グローブを外した手が、3分で痛くなった。
日高山脈は「北海道のアルプス」なんて言われることがある。
その呼び名が大げさじゃないと、ここに来てやっと分かった。
山の名前を覚えて来たのに、稜線の前では全部どうでもよくなった。
そういう場所だ。
ぬかびら源泉郷|下山後の湯が、骨まで染みる
登山口から車で40分ほど走ると、ぬかびら源泉郷に着く。
正式名称は「糠平温泉」。
それほど派手じゃない、静かな温泉街だ。
日帰り入浴を受け付けている宿が数軒ある。
料金は500〜700円が相場だ。
山から下りて、凍えた体でのれんをくぐる。
その瞬間のことは、毎回はっきりと覚えている。
脱衣所の空気が温かくて、靴下を脱いだ足の指が赤くなっている。
湯は無色透明。
少し滑りがある。
どこか懐かしい感じのする温泉だ。
浴槽に沈んで天井を見上げた。
何も考えられない。
それが正解だ。
帰り道、コンビニで肉まんを2個買った。
駐車場で食べた。
山の後のこういう時間が、旅の本当の核心だ。
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戸蔦別岳への行き方
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