地図で見ると、山と海に挟まれた細長い集落。 バスも1日数本しかない。 それでも行きたくなる場所が、三重県の九鬼にある。 熊野古道の裏側にひっそり息づく漁村。 観光地化されていない、本物の海辺の暮らしがそこにあった。 着いた瞬間、時間の流れが変わる感覚がする。
九鬼のおすすめスポット
九鬼港|静かな湾に、生活の音だけが響く
朝8時の九鬼港。
漁師が網を干している。
観光客はいない。
いるのは地元の人だけ。
港は小さい。
湾がぐるりと集落を囲んでいて、波がほとんど立たない。
だから水面が鏡みたいに静かだ。
係留された木造の漁船が、水面にゆらゆら映っている。
その光景を5分くらい、ただ眺めた。
港の脇に小さな魚市場がある。
午前中だけ開いていて、地元の人が買いに来る。
100円、200円の値札が並んでいた。
スーパーの鮮魚コーナーとは全然違う。
水揚げされたばかりの輝きがあった。
夕方に戻ると、港の景色がまた変わっている。
西日が湾に差し込んで、オレンジ色に染まっている。
あの時間に港にいられたのは、ちょっとした幸運だ。
鬼ヶ城|断崖の上に立つと、自分が小さくなる
九鬼から車で約20分、熊野市に入ったところに鬼ヶ城がある。
世界遺産になっている崖の遊歩道だ。
入口から歩き始めて、すぐ息を飲んだ。
波に削られた岩の造形が、想像を超えている。
洞窟があって、柱があって、天井に穴が開いている。
まるで誰かが意図的につくったみたいだけど、全部自然がやったことだ。
遊歩道は約1km。
所要時間は30〜40分が目安。
ところどころ足元が狭くなるので、スニーカーが必須だ。
一番怖かったのは、「千畳敷」と呼ばれる広い岩場。
足元が直接、海に落ちていく。
高さは軽く30m以上ある。
風が強い日は本当に端に近づけない。
晴れた日の海の色が特別だ。
コバルトブルーというより、もっと深い青。
あの色は写真に撮っても伝わらない。
実際に目で見るしかない。
漁村散策|迷子になるくらいがちょうどいい
九鬼の集落は、山の斜面にへばりつくように広がっている。
平地がほとんどないから、家と家の間が階段だったりする。
地図を見ながら歩くより、感覚で動いた方がおもしろかった。
路地に入ると、突然、海が目の前に開けたりする。
その瞬間が何度あったか。
古い石垣が続く細道に、猫が座っている。
逃げない。
じっとこっちを見ている。
地元に慣れている猫だ。
住民の方に話しかけてみると、気さくに応えてくれた。
「昔はもっと家があったけどね」という言葉が残る。
過疎化は進んでいる。
それでも、残っている人たちの暮らしが濃かった。
集落の奥に小さな神社がある。
ぼろい石段を上がった先に、九鬼一族ゆかりの祠があった。
誰もいない。
静かすぎて、自分の足音だけが聞こえる。
観光スポットとして整備されていない分、本当の集落の空気がそのままあった。
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九鬼への行き方
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