富山の山奥に、こんな世界があったのか。 そう思ったのは、トロッコの窓から切り立つ峡谷を見た瞬間だ。 黒部は、ただ「行く」だけでいい場所じゃない。 揺られて、歩いて、湧き水を飲んで、やっと「来た」と感じる。 その手間ごと、好きになってしまう場所だ。
黒部のおすすめスポット
宇奈月温泉|旅の疲れが、湯の中に溶けていく
黒部峡谷の入口に位置する、小さな温泉街。
ひなびた、という言葉が似合う。
観光地然としていなくて、それがいい。
宿に着いたのは夕方5時すぎ。
チェックインして15分後には、もう湯船にいた。
源泉は約98℃。
加水して提供されるが、それでも肌がじんとする熱さ。
無色透明でさらっとしたお湯なのに、上がった後は体の芯からあたたかい。
宿の外に出ると、黒部川のせせらぎが聞こえる。
コンビニもチェーン店もない。
スマホをしまいたくなる、そんな夜だ。
翌朝、駅前の足湯は無料で開放されている。
トロッコの出発前に立ち寄ったら、地元のおじさんが気さくに話しかけてきた。
そういう出会いも、宇奈月の温度のひとつ。
黒部峡谷トロッコ列車|窓の外が、ずっと絵画だ
宇奈月駅から欅平駅まで、片道約80分。
距離は20.1km。
たったそれだけの区間に、見飽きない景色が続く。
トロッコは屋根付きと窓なしの開放型がある。
迷わず開放型を選んだ。
風が、顔に直接当たる。
秋は少し寒い。それがいい。
出発してすぐ、眼下に新山彦橋が見える。
高さ約60m。
川の色が、信じられないくらい青い。
エメラルドでも、ターコイズでもない、黒部の青。
途中の鐘釣駅で途中下車した。
ホームから川岸に降りると、河原に温泉が湧いている。
自然の露天風呂、足を入れたら熱かった。
終点・欅平に着いたのは11時前。
駅を出た瞬間、峡谷の圧が体に来た。
スマホを構える前に、ただ立って見ている。
そういう場所だ。
生地の清水|海沿いの町に、突然の湧き水
黒部市の海側、生地(いくじ)という漁師町がある。
トロッコとは打って変わって、のんびりとした空気。
ここに、湧水スポットが点在している。
その数、50カ所以上。
町のあちこちに、ちょろちょろと水が湧いている。
一番有名なのは「清水庵の清水」。
丸い石造りの枠から、絶え間なく水が湧いている。
地元のおばあさんが、ペットボトルを持って汲みに来ている。
「毎日来るんですか?」と聞いたら、「当たり前じゃ」と笑われた。
一口飲んだ。
やわらかい。
冷たいのに、刺さるような冷たさじゃない。
ほんとうに、やわらかい水だ。
水が豊かだから、昆布の加工業も盛んで、生地には昆布を扱う店が多い。
湧水で〆た昆布締めを食べたら、ここに来た意味がわかった気がした。
清水と魚と昆布、全部つながっている町だ。