日本海に面した小さな港町、増毛。 読み方を教えると、たいてい笑われる。 でも実際に来てみると、笑いが吹き飛ぶほどの景色が待っている。 廃線になった駅、百年以上続く酒蔵、冬の荒波。 観光地っぽさが一切ない。 それが、この町の正直なところだ。
増毛のおすすめスポット
国稀酒造|零下の蔵で、百年分の時間を飲む
創業は1882年。
日本最北の酒蔵と言われている。
木造の建物に足を踏み入れると、冷気がどっと来た。
外は氷点下だというのに、蔵の中はさらに冷たい気がした。
試飲は無料で、何種類か並んでいる。
「国稀」の純米酒をひと口。
すっきりしているのに、どこか芯がある味だ。
売店のおばちゃんに話しかけたら、止まらなくなった。
「冬の仕込みが一番大事なんだよ」と言っている。
その言葉の重さが、グラスの向こうに見えた気がした。
建物自体が国の登録有形文化財。
見学は無料で、蔵の中まで入れる。
これだけの場所が無料なのか、と少し驚いた。
甘酒も1杯200円で飲める。
冬に来たなら、これが正解だ。
旧増毛駅|2016年に消えた、終着駅の空気
2016年12月、留萌本線の増毛〜留萌間が廃止された。
ホームも線路も、そのまま残っている。
駅舎に入ると、時刻表がまだ貼ってあった。
最終列車の日付のままで。
なんとも言えない気持ちになった。
柱や床の木が年季を帯びていて、踏むたびにきしむ。
そのきしみが、なんか好きだ。
映画「駅 STATION」のロケ地としても知られている。
1980年の高倉健主演の作品だ。
知らなくても、この空気だけで十分伝わってくる。
ホームに出ると、日本海が見える。
風が強くて、目が痛いくらいだ。
でも、それがちょうどよかった。
入場無料。
観光客はほとんどいない。
貸し切りみたいに、ゆっくり過ごせた。
増毛港|冬の荒波と、甘えびの赤
港に着いたのは朝9時頃だ。
風速は体感で10メートルを超えている。
コートの前が開くたびに、海の塩が顔に当たった。
増毛は甘えびの産地として知られている。
漁港に近い食堂に入ると、甘えびの刺身定食が1,500円ほどで食べられた。
透き通るような赤。
ひと口で、冷たくて甘い。
東京で食べる甘えびとは、別物だ。
港の規模は大きくない。
でも冬の日本海を真正面から受けている迫力は、写真では伝わらない。
波がうねって、防波堤を叩く音がずっと聞こえている。
早朝に来ると、漁師さんが作業している場面に出会えることもある。
邪魔にならないよう、遠くから眺めている。
それだけで、この町が動いている。