冬の美作は、静かだ。 山に雪が積もり始める頃、温泉の湯気だけが白く立ちのぼる。 岡山の北東、津山を越えたあたりから、空気がぴりっと変わる。 にぎやかさとは無縁の場所。 だからこそ、ここに来た。 芯まで冷えた体を、ゆっくりほぐしたかった。
美作のおすすめスポット
湯郷温泉|夜の小路を歩いて、やっと湯に沈む
津山から車で約20分。
「湯郷」という名前を初めて見たとき、読み方すら知らない。
「ゆのごう」と読む。
旅館街は、思ったよりこぢんまりしている。
車通りも少なく、夜は静まり返っている。
それがむしろよかった。
泊まったのは一泊8,000円台の小さな宿。
部屋に露天はないけれど、共同露天が24時間入り放題だ。
夜11時に入りに行ったら、誰もいない。
ひとり、空を見上げながら浸かる。
冬の星が、信じられないくらいよく見える。
湯郷の湯は無色透明のアルカリ性単純温泉。
刺激が少なく、じわじわと体の奥が温まる感じ。
翌朝、肌がすべすべになっている。
それだけで来た甲斐があった。
朝の温泉街を15分ほど散歩した。
足湯が無料で使える場所もある。
コーヒー片手にぼんやりするのが、最高だ。
湯原温泉|砂湯という名の、川辺の奇跡
湯郷から車で約40分。
旭川の上流を目指して山道を走る。
カーブが続いて、少し不安になった頃に到着する。
湯原温泉の目的はひとつ。
「砂湯」に入ること。
川沿いに整備された露天風呂で、入浴料はなんと無料。
24時間いつでも入れる。
ダム湖を背に、旭川の流れを聞きながら湯に浸かる。
冬に来ると、湯気の量が圧倒的に多い。
白い霧の中に、知らない人たちが数人いる。
みんな無言で、それがいい。
泉質は重曹泉。
肌がぬるっとして、温まりやすい。
外気温が5度を下回っていたのに、湯から出たくない。
上半身だけ寒くて、下半身はぬくぬく。
あの感覚は忘れられない。
脱衣所は男女別で一応整っている。
ただし、シャワーはない。
温泉だけで完結する、潔い場所だ。
近くのコンビニまで車で15分かかるので、飲み物は持参したほうがいい。
武蔵の里|剣豪の生まれた里は、静かすぎるくらい静かだ
美作市大原地区。
ここが宮本武蔵の出生地とされている。
「武蔵の里」という施設群が点在していて、武蔵神社、資料館、生家跡などを歩いて回れる。
全部で2〜3時間あれば十分。
正直に言う。
最初は「テーマパーク的なやつかな」。
まったく違った。
山に囲まれた、本当に小さな集落。
田んぼと畦道と、冬枯れの木々。
そこに武蔵神社がひっそりある。
参道を歩くと、足音しか聞こえない。
参拝客はこの日、3人しかいない。
武蔵が実際にここで幼少期を過ごしたのかどうか、諸説ある。
でも、この景色の中で育ったなら、何かを研ぎ澄ますには確かに向いている。
入館料400円の資料館は、小さいながらも展示が丁寧だ。
40分ほどでゆっくり見られた。
売店で買った武蔵饅頭は、素朴な甘さで悪くない。
お土産に5個入り600円で買って帰った。