雪がちらつく夜、石畳の路地を浴衣で歩く。 手には手ぬぐい、足元は下駄。 そのカランコロンという音が、渋温泉の夜には妙によく似合う。 長野・湯田中から少し奥に入ったこの小さな温泉街には、 昭和どころか江戸の匂いがまだ残っている。 訪れたのは1月。一番寒い季節を、あえて選んだ。
渋温泉のおすすめスポット
渋温泉九湯めぐり|9つの湯を制覇する夜、それが渋温泉の本番だ
旅館にチェックインすると、木製の鍵が渡される。
これが九湯めぐりの鍵だ。
宿泊者だけが持てる、外湯9か所を巡る権利。
一番湯から九番湯まで、石畳の路地に点在している。
距離にすれば大した話じゃない。
でも、冬の夜に浴衣で歩くとなると話が変わる。
湯は湯屋ごとに違う。
熱めの湯、少しぬるい湯、硫黄の香りが強い湯。
地元の人と肩を並べて浸かる瞬間が、妙に好きだ。
九番湯「渋大湯」だけは少し特別で、
御朱印帳ならぬ「湯めぐり手帳」にスタンプを押していく仕組み。
全部埋まったとき、小さな達成感がある。
料金は宿泊者は無料。
外来者は一部の湯のみ入浴可で、1か所250円前後。
夜9時を過ぎると閉まる湯もあるので、チェックイン後すぐ動くのが正解。
地獄谷野猿公苑|温泉に浸かるサルと、目が合った
渋温泉から徒歩約30分、または車で10分弱。
雪道を進んだ先に、地獄谷野猿公苑がある。
入場料は800円。
ゲートを入ると、すぐに硫黄の匂いがくる。
川沿いに歩いていくと、唐突にサルがいる。
普通に、そこにいる。
温泉に浸かったサルを見るのは写真で知っている。
でも実際に目の前で見ると、気持ちよさそうで笑ってしまう。
目を細めて、湯気の中にいる。
驚いたのは、サルとの距離の近さだ。
フェンスも柵もない。
普通に横を通り過ぎていく。
こちらを一瞥して、また温泉に戻る。
カメラを向けると、正面から見つめ返してくる個体がいた。
その目が、思ったより澄んでいた。
冬の午前中が一番混雑が少ない。
海外からの観光客も多く、平日でもにぎわっている。
駐車場から公苑まで徒歩20〜25分の雪道、
滑り止めつきの靴は必須。
渋温泉の外湯めぐり|浴衣で歩く夜の路地、それが旅の核心だ
渋温泉の宿に泊まる理由は、正直これだ。
夜、浴衣に着替えて外に出る。
下駄を履いて、手ぬぐいを持って。
路地は狭い。
軒先には提灯が灯っていて、雪が降ると光が滲む。
この景色を見るためだけに、冬に来た価値があった。
九湯のほかに、宿の内湯も当然ある。
でも外湯を巡る行為そのものが、ここでは体験になっている。
移動が目的になる、珍しい温泉街だ。
途中、小さな土産物屋が開いている。
温泉まんじゅうを1個買って、歩きながら食べた。
確か130円だ。
九湯すべてを一晩で回るのは、体力的にきつい。
無理せず4〜5か所でいい。
湯に浸かりすぎると、かえってのぼせる。
朝も動ける。
早朝6時から開く湯もあり、誰もいない朝の外湯は静かで別格だ。
雪の路地を一人で歩く、あの感覚は今も残っている。