福島の山奥に、ひっそりと湯けむりが立ちのぼる場所がある。 二岐温泉。 アクセスも不便、派手な観光地でもない。 それでも、ここを目指す人が絶えないのには理由がある。 冬に来て、初めてわかった。 雪に埋もれた山あいで、ただ湯に浸かる。 それだけで、何かが溶けていく感じがした。
二岐温泉のおすすめスポット
旅館大黒屋|築100年超の板間で、時間の感覚がなくなる
国道から細い山道を30分ほど走る。
カーナビが「目的地周辺です」と言い出した頃、やっと看板が見える。
大黒屋は、江戸末期から続く宿だ。
ロビーというより「土間」に近い。
スリッパに履き替えた瞬間、床がきしんだ。
その音がなぜか心地よかった。
温泉は源泉かけ流し。
無色透明で、肌にぬるっとなじむ感触がある。
内湯は木造りで、湯温は42℃前後。
ずっと入っていられる。
食事は地のものばかりだ。
イワナの塩焼き、こんにゃく刺し、山菜の煮物。
華やかさはゼロ。
でも全部、ちゃんとおいしかった。
1泊2食で16,000円前後。
予約は早めに。
冬の週末は埋まるのが早い。
二岐山登山口|雪道を1時間、誰にも会わない
標高1544m。
二岐山は、ふたつの峰を持つ山だ。
登山口は温泉街のすぐそこにある。
冬は当然、雪道になる。
軽アイゼンを持っていて本当によかった。
最初の30分は急登が続く。
息が上がる。
雪が深いところで膝近くまであった。
静かだ。
風の音だけが聞こえる。
1時間ほど歩いたところで、木の間から温泉街が見える。
湯けむりが白く漂っている。
その景色に、思わず声が出た。
山頂まで行くのは冬季には相当の体力がいる。
無理せず、途中の展望ポイントで引き返すのが現実的だ。
下山後の温泉が、信じられないくらい気持ちいい。
このセットがたまらない。
沢沿いの露天風呂|雪が降る中、川音だけが聞こえる
大黒屋の露天風呂は、沢のすぐそばにある。
夜、雪が降り始めた頃に入りに行った。
外気温はたぶんマイナス5℃以下。
脱衣所から出た瞬間、顔が刺さるように冷たかった。
でも湯船に入ると、体の芯まで熱が広がる。
そのコントラストが、もう言葉にならない。
川の音がずっと聞こえている。
ぼた雪が湯面に落ちてくる。
ほかに誰もいない。
30分くらいいた。
体感では10分だ。
時間の感覚が、完全にずれた。
こういう体験を、昔の人は「湯治」と呼んでいたんだ。
温泉に治してもらう、ということ。
現代人が忘れかけている感覚が、ここにはまだある。
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二岐温泉への行き方
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