携帯の電波が切れた。 そのことに気づいたのは、猿ヶ京から山道を30分走ったあたりだ。 不思議と焦らない。 法師温泉は、そういう場所だ。 明治8年に建てられた木造の宿が、今もそのままそこに立っている。 雪が積もった山の中に、湯けむりだけが上がっている。
法師温泉のおすすめスポット
法師乃湯|混浴の石風呂で、時間の感覚がなくなる
脱衣所で服を脱ぐ前から、もう雰囲気に飲まれている。
明治8年築の浴舎に足を踏み入れると、高い天井から光が差し込んでいる。
格子窓、太い梁、古い木の床。
全部が本物だ。
浴槽は4つに区切られていて、底から温泉がぽこぽこと湧き上がってくる。
これが源泉かけ流しか、と思った瞬間があった。
混浴だから女性にはハードルが高いだ。
実際、女性専用時間が朝7時から9時まである。
その時間帯は女性客だけが入れる。
泉質は単純硫黄泉。
お湯はぬるめで38度前後。
だからこそ、1時間以上出られない。
湯船の底から湧く感触が、足の裏に伝わってくる。
誰も話さない。
雪の音も聞こえない。
ただ、お湯の音だけがあった。
長寿館の夕食|囲炉裏の前で、山のものを食べる夜
部屋に案内されたとき、窓の外は真っ白だ。
雪がずっと降り続けている。
夕食は囲炉裏のある食事処で出てきた。
岩魚の塩焼き、山菜の天ぷら、こんにゃくの刺身。
地元の食材ばかりが並んでいた。
岩魚は囲炉裏でそのまま焼かれていて、箸を入れると身がほろっと崩れた。
養殖ではない、野性的な香りがした。
仲居さんが「今年は雪が多くて」と話しかけてきた。
猿ヶ京から先の道が積雪で通行止めになることもある、と教えてくれた。
夜8時を過ぎると、館内がしんと静まる。
スマートフォンを触る気にもならない。
料金は1泊2食付きで大人1人18,000円前後から。
部屋によって幅がある。
古い建物だから、暖房はそれほど強くない。
羽毛布団を重ねて眠った。
雪の朝散歩|宿の周りには、それしかない
翌朝6時半、外に出た。
-5度だ。
宿の周りには何もない。
売店も、コンビニも、自販機すらない。
あるのは、雪をかぶった杉の木と、川の音だけだ。
法師川沿いの小道を少し歩いた。
足跡は自分のものだけ。
雪がきゅっきゅっと鳴った。
10分も歩けば、引き返したくなる寒さだ。
でも不思議と悪くない。
こういう朝が、ここの本質だ。
スマートフォンも必要ない。
観光地でもない。
ただ山の中の一軒宿に来た、それだけの場所だ。
朝食は7時半から。
湯豆腐と卵かけご飯と漬物。
シンプルだ。
それで十分だ。
帰りの車で電波が戻ってきた瞬間、
すこしだけ惜しい。
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法師温泉への行き方
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