静寂って、こんなに重いんだ。 舟が水を割る音だけが響く。 両側にそびえる石灰岩の断崖。 高さは50メートルを超える壁が、空をせばめていく。 猊鼻渓は、岩手の山奥にひっそりある。 でも一度来たら、もう一度来たくなる場所だ。
猊鼻渓のおすすめスポット
猊鼻渓舟下り|竿一本で、時間がゆっくり流れていく
乗り場に着いたのは朝9時すぎ。
平日だったのに、すでに列ができている。
料金は大人1,800円。
それほど高くない、と思いながら舟に乗り込んだ。
船頭さんが竿を一本突いた。
舟がスーッと動き出す。
エンジン音がない。
その静けさに、最初は戸惑った。
両岸の岩が迫ってくる。
コケが緑を深くしていて、水は透き通っている。
川底まで見える清流の色は、灰色がかった青緑。
折り返し地点では「げいび追分」を船頭さんが歌ってくれる。
崖に反響して、声が増えるように聞こえる。
思っていたより、ずっとよかった。
運が良ければ、岩壁のくぼみにカモシカがいる。
この日は一頭、じっとこちらを見ている。
舟の上で、思わず声を上げた。
往復90分のコースは、あっという間に終わった。
厳美渓|轟音と水しぶき、そして空飛ぶだんご
猊鼻渓から車で約30分。
厳美渓は、別の顔を持っている。
猊鼻渓の静けさとは正反対。
轟音が聞こえてくる。
川に近づくと、水しぶきが飛んできる。
巨岩を削りながら流れる磐井川は、迫力が全然違う。
ここで外せないのが「空飛ぶだんご」。
対岸の茶屋「郭公だんご」に向けて、木箱を吊るしたロープが渡してある。
お盆を叩いて合図を送ると、だんごとお茶が籠に乗って運ばれてくる。
こういう仕掛けを考えた人は天才だ。
3本で350円。
ゴマ・あん・みたらしの3種入り。
水辺で食べるだんごは格別だ。
遊歩道を20分ほど歩けば、渓谷の全体像が見えてくる。
新緑の時期は、岩と緑のコントラストがすごい。
思ったより見応えがある渓谷だ。
平泉|黄金の夢の、残り香がある
一関から電車で10分もかからない。
平泉には、中尊寺がある。
正直、最初は「世界遺産か、混んでそう」。
でも月見坂の石畳を登り始めると、杉の巨木が空を覆ってくる。
その暗さと静けさが、すでに別の時間だ。
金色堂は入場料800円。
覆堂の中に入ると、照明に照らされた金色堂が浮かび上がる。
ガラスケースの向こうにあるのに、なぜか近い気がした。
900年前に、これを作った人がいる。
その事実がじわじわ来た。
毛越寺の庭園も歩いた。
池に空が映っている。
浄土をイメージして作られた庭だと説明板にあった。
なるほど。
猊鼻渓の自然→厳美渓の迫力→平泉の歴史。
この三つをつなぐと、一日がものすごく濃くなる。
岩手の底力を、見た気がした。