フェリーを降りた瞬間、音が消えた。 車もほとんど走っていない。 人の声もしない。 五島列島の中でも、久賀島は特別に静かな島だ。 ここには、弾圧を生き延びたキリシタンの記憶と、 手つかずのままの海と森が残っている。 派手な観光地とは真逆の場所。 それでも、来てよかったと思う瞬間が、確かにある。
久賀島のおすすめスポット
旧五輪教会堂|森の奥に、祈りが静かに息をしている
海沿いの道を歩いて約40分。
あるいは船で五輪集落に渡ることもできる。
どちらにしても、簡単にはたどり着けない場所だ。
木々の間を抜けると、突然それが現れる。
明治中期に建てられた木造の教会。
ペンキで塗られた真っ白な外壁ではなく、
古びた木の色がそのままそこにある。
中に入ると、光が柔らかく差し込んでいた。
ステンドグラスではない。
普通のガラス窓から入る、ただの午後の光だ。
なのに、妙に胸に来る。
ここで祈り続けた人たちのことを、
知識としてではなく、なんとなく感じた。
そういう場所だ。
訪問には事前に五島市への連絡が必要。
観光気分だけで来てはいけないと、入った瞬間に思う。
蕨集落|廃村の静寂に、残された時間が漂っている
久賀島の北部、蕨集落。
今は誰も住んでいない。
草に覆われた石垣が続いている。
崩れかけた家屋の跡がある。
それでも道の形は残っていて、
人がここで生きていたことは確かにわかる。
ここも、明治初期の「五島崩れ」と呼ばれる
キリシタン弾圧の舞台になった場所だ。
牢屋の窄(ろうやのさこ)という史跡が近くにある。
畳2枚ほどの部屋に、200人以上が押し込められた。
3か月で42人が命を落とした。
その数字が、現地に来るとずっしりとくる。
観光地化されていないから、余計にリアルだ。
集落への道は舗装されていない部分もある。
歩きやすい靴は必須だ。
ひとりで来ると、少し心細くなる静けさがある。
それでも、来る価値がある場所だ。
久賀島の自然|何もないのに、ここにいたくなる理由
島の面積は約56平方キロメートル。
人口は400人を切っている。
コンビニも信号もない。
そのかわりに、何がある?
透明度の高い海がある。
椿の群生がある。
春先には道沿いに野の花が咲いている。
夜は星が、正直こわいくらい多い。
レンタサイクルで島を一周しようとして、
途中で諦めた。
アップダウンが思った以上に激しかった。
でも、丘の上から見た海の色は覚えている。
グリーンとブルーが混ざったような、
名前をつけられない色だ。
久賀島は「見どころ」を探す旅より、
「いる」ことに意味がある島だ。
ベンチに座って、ぼんやりしていい。
誰も急かさない。
そういう時間が、ここにはある。