山の奥に、こんな場所があったのか。 熊本の山深く、黒川温泉はひっそりと湯煙をあげている。 派手な看板もない。 コンビニもない。 あるのは川の音と、硫黄のにおいと、静けさだけ。 冬に来てよかったと、露天風呂の縁に腰かけながら思った。
黒川温泉のおすすめスポット
入湯手形|1枚で3湯、温泉街をはしご酒みたいに歩く
旅館の玄関で受け取った手形は、木でできている。
小さくて、温かい。
これ1枚で、黒川温泉の加盟旅館のうち好きな3軒の湯に入れる。
料金は1,300円。
有効期限は6ヶ月あるけれど、1日で3軒まわるのが醍醐味だ。
温泉街の路地を歩いて、気になる暖簾をくぐる。
そこが自分の宿でなくても、手形があれば入れる。
この仕組みを最初に聞いたとき、正直すごい。
ライバルのはずの旅館同士が、客を融通し合っている。
朝9時から湯めぐりをはじめた。
午前中に2軒、昼食をはさんで夕方にもう1軒。
宿に帰る頃には、もうふらふらだ。
体が芯まで温まって、寒さを感じない。
冬の黒川で、これをやらない手はない。
山みず木|川のすぐそこで、野趣あふれる湯に浸かる
山みず木の露天風呂は、川沿いにある。
岩の間から湯が湧いて、すぐ横を田の原川が流れている。
距離にして、2メートルもないだ。
冬の朝、7時に湯船に入った。
川霧が漂って、対岸の木々が白く霞んでいた。
湯温は少し熱め。
川風が顔に当たって、それがちょうどいい。
ここの湯は単純硫黄泉。
肌がすべすべになると聞いていたけれど、本当だ。
上がった後、腕の内側をさわったら驚いた。
食事は地元の食材を使った山里料理。
馬刺しと、地鶏の鍋と、季節の野菜。
量が多くて、食べきれないくらいだ。
部屋数が少ないぶん、静かで落ち着いている。
大きな宿では得られない、あの感じがある。
山河|竹林の奥に、時間がとまったような宿がある
山河というのは、ロケーションそのものが名前になっている。
細い道を進んで、駐車場に車を止める。
そこから先は、竹林の小径を歩く。
たった数分なのに、別の場所に来た感じがした。
音が変わる。
光が変わる。
内湯と露天が複数あって、混浴の岩風呂もある。
夕方に入った露天風呂は、誰もいない。
山の稜線が見えて、空が広かった。
湯の色は少し白濁している。
宿のスタッフが静かで、気配を消すのがうまい。
でも必要なとき、ちゃんとそこにいる。
そのバランスが心地よかった。
朝食は部屋食で、品数が多かった。
温泉粥が出た。
シンプルなのに、妙においしかった。
旅先での朝食が好きになったのは、こういう経験が積み重なったせいだ。
九重夢大吊橋|高さ173m、足がすくむのに目が離せない
黒川温泉から車で約30分。
九重夢大吊橋は、日本一の高さを誇る歩行者専用の吊り橋だ。
長さ390m、高さ173m。
数字を見ても、現地に来るまでピンとこない。
橋の入口に立って、渡りはじめた瞬間に理解した。
足元が、網目になっている。
下が、見える。
谷底が、ずっと下にある。
怖いのに、止まれない。
風が吹くと、橋が微妙に揺れる。
隣の人が「無理」と言って笑っている。
その笑いは緊張をごまかすやつだと、すぐわかった。
冬の晴れた日は、九重連山が正面に広がる。
雪をかぶった山が、青い空の下に見える。
日本にこんな景色があるのか。
往復で20〜30分もあれば歩けるけれど、
引き返すまでの間、ずっと感動している。
入場料は500円。
安すぎる気がした。
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