冬の箱根は、空気が違う。 澄んでいて、少し痛くて、どこか静かだ。 宮ノ下に降り立ったとき、そう感じた。 温泉の湯気と、古い建物と、山の冷たさが混ざり合う場所。 観光地というより、時間がゆっくり流れる「場所」に近い。 ここに来ると、なぜかほっとする。
宮ノ下のおすすめスポット
富士屋ホテル|140年前から、ここに立っている
正直、外観を見た瞬間に声が出た。
1878年創業。
ジョン・レノンも泊まった宿だという。
そういう話を聞いても「ふーん」で終わることが多いのに、
ここは違った。
玄関を入ると、天井が高い。
廊下に木の軋む音がする。
エレベーターが、妙に遅い。
その遅さが、なぜか心地よかった。
ランチだけの利用でも予約できる。
「花御膳」は3,500円前後。
ダイニング「ザ・フジヤ」の空間で食べると、
値段以上のものを受け取った気がした。
冬のホテルは特にいい。
観光客が少ない分、スタッフと少し話せた。
「昔はここで楽団が演奏していたんです」と教えてくれた。
それを聞いて、もう一度ロビーを見回した。
想像力がふくらむ場所だ。
宮ノ下温泉|42度の湯に、冬が溶けていく
宮ノ下の温泉は、主張しない。
硫黄の臭いも、白濁した色もない。
無色透明で、さらっとしている。
でも、上がったあとが違う。
体の芯から温かくて、翌朝も温かい。
泉質はナトリウム・カルシウム塩化物温泉。
肌に薄い膜が張るような感覚があった。
冬に来ると、その効果が体でわかる気がする。
ホテル以外でも日帰り入浴できる施設がいくつかある。
「太閤湯」は地元の人が多く使う昔ながらの湯。
料金は500円ほど。
タオルを持参すると助かる。
夕方5時ごろに入るのがおすすめだ。
山に日が沈んで、空気がぐっと冷える時間。
その冷たさのなかで湯に浸かると、
「ここまで来た甲斐があった」と素直に思えた。
温泉って、結局これだ。
なにかを解放する感覚。
箱根登山鉄道|のろのろと、山を登っていく
小田原から乗って、40分。
この電車が好きだ。
急勾配をゆっくり登る。
スイッチバックで向きを変える。
窓が曇る。
それでも外を見たくて、手で拭く。
宮ノ下駅に停まる時間は30秒ほどだ。
でもその30秒で、景色が変わっている。
冬は紅葉が終わり、枝だけになった木が並ぶ。
その透け感が、かえって山の輪郭を見せてくれる。
夏には気づかなかった景色だ。
宮ノ下駅は無人駅に近い。
ホームに降りると静かで、電車の音が遠ざかっていくのを聞いた。
「来たな」と思う瞬間だ。
乗車は Suica 対応。
小田原〜宮ノ下は大人560円。
混雑する週末を避け、平日に乗ると、
シートに座って窓を独占できる。
その贅沢が、旅の始まりになる。