三陸の風は、思ったより冷たかった。 海が見える。松原があった場所が見える。 でも、あの日以前の景色は、もうどこにもない。 陸前高田は、悲しみを隠さない町だ。 それでも、ここに来てよかった。 何かを知りたい人、忘れたくない人に、この町は正直に語りかけてくる。
陸前高田のおすすめスポット
奇跡の一本松|風の中に、ただ、立っている
防潮堤の向こうに、それは見える。
たった一本。
津波が来る前、この場所には約7万本の松があった。
すべて流された。
その中で、1本だけ残る。
近づくと、想像より細い。
高さは約27メートル。
でも幹には、あの日の痕跡がない。
もともとの松は枯れていて、今立っているのはモニュメントとして復元されたものだ。
それを知った瞬間、少し複雑な気持ちになった。
本物じゃないのか、と。
でも、風の中に立ち続けるその姿を見ていたら、そんな気持ちは消えた。
「残す」という意志が、この一本松には宿っている。
観光地っぽい写真を撮ろうとしたけれど、なんとなくシャッターを押せない。
しばらく、ただ見ている。
東日本大震災津波伝承館|数字が、痛かった
2019年にオープンした施設だ。
入館料は無料。
それだけで、この場所の覚悟がわかる気がした。
館内に入ると、まず映像が始まる。
音が、大きい。
逃げる人たちの声。
水が来る映像。
隣に座っていた60代くらいの男性が、途中で下を向いた。
展示は、数字が多い。
死者・行方不明者、1万8千人以上。
陸前高田市だけで、1,757人。
数字なのに、重かった。
パネルだけじゃなく、当時の生活用品や証言映像もある。
子どもの靴が展示されている。
小さかった。
1時間半いた。
全部は見られない。
また来よう。
高田松原|ここに、7万本の松があった
今の高田松原は、再生途中だ。
砂浜が戻り、若い松が植えられている。
背丈はまだ低い。
ひざ丈くらいの松が、整然と並んでいた。
海風が、素直に通ってくる。
遮るものが、まだない。
昔の写真を見ると、鬱蒼とした松林が続いている。
あの景色が戻るのは、何十年後だろう。
砂浜に出ると、波の音がした。
海は穏やかだ。
怖くない。
ただ、静かだ。
BRTの駅から歩いて20分ほど。
途中の道はまっすぐで、広い。
再整備された土地の広さが、逆に喪失の大きさを教えてくれる。
何もなくなったからこそ、遠くまで見える。
それが、今の高田松原だ。