岩手の三陸海岸を南下すると、 ふいに「綾里(りょうり)」という地名が現れる。 読み方すら知らない。 でも、その湾を目にした瞬間に理解した。 ここは、静かに隠れていた場所だ。 観光地化されていない分、海が本物のままそこにある。 それだけで、来た意味があった。
綾里のおすすめスポット
綾里湾|リアス式の入り江が、息を飲むほど静かだ
車を停めて、崖の上から見下ろした瞬間。
「あ、これか」と声が出た。
リアス式特有の深い入り江。
山が海にそのまま落ちていく地形。
湾の奥まで入り込んだ海水が、
鏡のように空を映している。
午前10時ごろに訪れたが、漁師の小舟が数艘あるだけ。
観光客はほぼゼロ。
売店も案内所もない。
それがよかった。
震災の傷跡は、海沿いの高い防潮堤に残っている。
15メートル近い壁が、湾を半分隠すように立つ。
美しさと、その理由の重さが同時に来る。
波の音だけが続いている。
風がなければ、30分でも立っていられる場所だ。
綾里崎灯台|たどり着いた先に、太平洋が全部あった
灯台まで、山道を約40分歩く。
整備はされているが、道は細い。
途中、誰にも会わない。
「本当にあるのか」と不安になりはじめた頃、
木々の隙間に白い塔が見える。
灯台自体は小ぶりだ。
高さは10メートルほど。
内部には入れない。
でも、そこから見える景色が全部を吹き飛ばした。
太平洋が、端から端まで広がっている。
水平線が弧を描いているのが、
ここまではっきりわかる場所は多くない。
晴れた日の午後、光が海面で砕けて白く光っている。
風が強く、帽子を抑えながら立っている。
それでも離れがたかった。
スニーカーでは少しきつい。
トレッキングシューズを強く勧める。
三陸鉄道リアス線|海沿いの車窓が、旅の記憶になった
綾里駅は、ホームが1本だけの無人駅。
自動券売機もない。
整理券を取って、車内で精算する。
乗り込んだ車両はワンマン運転の1両編成。
午後の便、乗客は7人だ。
盛駅から釜石駅まで、全線は約90分。
途中、海が車窓いっぱいに広がる区間がある。
トンネルを抜けた瞬間に海が現れるあの感じ、
何度あっても慣れない。
運賃は区間によるが、綾里〜盛間で340円。
安い。それで、あの車窓が買える。
海側の座席は進行方向左側(上り)か右側(下り)。
乗る前に路線図で確認しておくといい。
震災後に復旧したこの路線を、
まだ地元の人たちが使っている。
その日常に、少しだけ混ぜてもらった気分だ。