宮崎の山奥に、日本が忘れかけているものがある。 道は細く、カーブは続き、集落が見えるたびに息をのむ。 椎葉村は「秘境」と呼ばれるが、そこには確かに人の暮らしがあった。 平家の落人伝説が今も息づく土地。 来てみて初めて、その意味がわかった。
椎葉村のおすすめスポット
椎葉村役場|山の斜面に、村の中心がある
役場を目指して車を走らせると、急斜面に建物が張り付いている。
平地がほとんどない。
そのことに、まず驚いた。
標高約550m。
宮崎市から車で約2時間半かかる。
そのアクセスの悪さが、この村の「秘境」たる理由だとわかる。
役場の入口には観光案内のパンフレットが並んでいる。
スタッフに話しかけると、村の歴史を丁寧に教えてくれた。
人口約2,400人。
村の面積は東京23区とほぼ同じ。
そのほぼ全部が山と森だ。
役場のそばの展望スポットから見下ろすと、耳川が銀色に光っている。
谷が深い。
集落が点在している。
ああ、これが山岳の村か、と腑に落ちた瞬間だ。
観光案内所としても機能しているので、まず最初に立ち寄るのがいい。
鶴富屋敷|800年前の恋が、今もここに残っている
門をくぐった瞬間、空気が変わった。
茅葺き屋根が、どっしりと構えている。
鶴富屋敷は、平家の落人・那須大八郎と椎葉の娘・鶴富姫の悲恋の舞台だ。
建物は江戸時代中期に建てられたもので、国の重要文化財に指定されている。
入館料は300円。
内部は土間と板の間が続く古民家の構造で、生活の道具がそのまま展示されている。
囲炉裏の煤で黒ずんだ天井。
柱の傷。
ここに人が確かに生きていた痕跡が残っている。
学芸員のおじさんが話しかけてきた。
「鶴富姫の子孫が今も村に住んでいますよ」と笑顔で言った。
800年後も血が続いている。
その事実がなぜか胸に刺さった。
庭に出ると、山が四方を囲んでいた。
ここから逃げるのは不可能だ。
だから落人たちは、この地に根を張って生きたのだと納得できる。
山岳集落(十根川・不土野地区)|人が、山にしがみついて生きている
集落への道は、車1台がやっと通れる幅だ。
ガードレールがないカーブで、思わずブレーキを踏んだ。
十根川集落は、急斜面に民家が点在する重要伝統的建造物群保存地区だ。
石垣の上に家が建ち、その上にまた石垣がある。
段々になった暮らしの積み重ね。
平地がないから、畑も棚田も全部斜面に作る。
農作業がどれだけ大変か、見るだけでわかる。
不土野(ふどの)地区まで足を伸ばすと、さらに深い山の中に集落があった。
午後3時を過ぎると山の影が落ちる。
日照時間が短い分、人々は夜を長く過ごしてきた。
だから椎葉に古い民謡や神楽が多く残るだ。
出会ったおばあさんが「遠くから来たね」と声をかけてくれた。
椎葉弁が温かくて、少し聞き取れなかったけれど、笑顔は万国共通だ。
山に来ないと会えない人がいる。
それだけで来る価値があった。
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椎葉村への行き方
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