雪の中に、湯けむりが立ちのぼる。 その光景を見た瞬間、言葉を失った。 乳頭温泉郷は、秋田県・田沢湖の奥地にある。 標高約600m。 アクセスは簡単じゃない。 でもだからこそ、たどり着いたときの感動がある。 白と灰色しかない冬の森に、硫黄の匂いと温かい蒸気だけが漂う。 ここに来るためだけに、秋田まで来てよかった。
乳頭温泉郷のおすすめスポット
鶴の湯温泉|300年の歴史が、雪の中でそのまま息をしている
冬の鶴の湯に着いたのは、午後2時ごろだ。
雪が積もった茅葺き屋根の長屋。
そこに宿泊客だけが歩いている。
観光地っぽい雰囲気は、まったくない。
混浴の露天風呂に入ると、目の前に雪原が広がる。
白濁した湯が、体の芯までじわじわ温める。
乳白色の湯の色は、硫黄と炭酸の成分によるもの。
雪がしんしんと降り続く中、ひたすら湯に浸かっている。
宿泊は1泊2食付きで1万2,000円前後。
予約は半年待ちになることもある。
電話は朝9時から。
つながらなくて当然、という覚悟で臨む必要がある。
それでも予約が取れたときの嬉しさは格別だ。
「来られた」という事実だけで、十分だ。
黒湯温泉|山の奥深くに、ひっそりと湧き続ける湯
乳頭温泉郷の中で、最も山奥にあるのが黒湯温泉だ。
冬季は道路が閉鎖されることもある。
行けたとしても、そこには静寂しかない。
名前の通り、湯は黒みがかった深緑色をしている。
硫黄臭が濃い。
最初は少し驚いた。
源泉温度は50℃以上。
加水なしで湧き出ている。
内湯と露天で泉質が微妙に違う。
露天は川沿いにあって、目の前の木々に雪が積もっている。
音は川のせせらぎだけ。
スマホを見る気にも、誰かと話す気にもならない。
ただ、ぼーっとしている。
30分くらい、湯の中で動けない。
日常から遠く離れた感覚は、ここでしか味わえない。
妙乃湯|野趣と品が、静かに共存している
鶴の湯や黒湯とは、雰囲気がまったく違う。
妙乃湯は、「洗練」という言葉が似合う宿だ。
渓流に面した露天風呂が有名で、川の音を聞きながら入れる。
湯の色は2種類。
単純温泉の無色透明と、含鉄泉の金色がかった湯。
どちらも源泉かけ流し。
同じ宿で2つの泉質に入れる贅沢さがある。
日帰り入浴は700円で、10:00〜15:00の受付。
ただし混雑時は断られることもある。
早めの到着が鉄則だ。
宿泊すると夕食が変わる。
山の幸を使った料理が、ひとつひとつ丁寧に出てくる。
地酒との相性が良くて、気づいたら飲みすぎている。
温泉だけでなく、宿としての居心地を求めるなら妙乃湯一択だ。