山を越えて、また山を越える。 そのたびに、現代が少しずつ遠くなる。 椎葉に着くころには、時間の流れまで変わっている気がした。 宮崎の山深く、秘境と呼ばれる場所がある。 でも「秘境」という言葉は少し違う。 ここには、ちゃんと人の暮らしと歴史が根づいている。
椎葉のおすすめスポット
鶴富屋敷|800年前の恋が、今もここに残っている
平家の落人伝説が残る集落。
その中心に、鶴富屋敷はある。
源平の戦いで敗れた平家の末裔と、
追討に来た那須大八郎の恋物語。
そのまま椎葉に居ついた武将と、地元の娘・鶴富姫。
史実かどうかはわからない。
でも、この屋敷に立つと不思議とリアルに感じた。
築200年以上の古民家は、板張りの床がしっかり冷たい。
冬の朝イチで訪れたら、囲炉裏に火が入っている。
その煙の匂いがたまらなくよかった。
係の方に声をかけると、丁寧に案内してくれる。
観光地然とした説明じゃなくて、
地元の人が「うちの話」をしてくれるような感じ。
それが椎葉らしかった。
入館料は大人200円。
この値段で、800年分の物語を聞ける。
椎葉民俗芸能博物館|山の暮らしが、ちゃんと記録されている
正直、最初はそこまで期待していない。
地方の民俗博物館って、展示が古くて暗いイメージがある。
でも、違った。
建物自体がまず面白い。
隈研吾が設計した、山の地形に沿うような外観。
冬の曇り空の下でも、凜とした存在感があった。
中に入ると、椎葉の焼畑農業や神楽の記録が並ぶ。
映像資料が特によかった。
山の斜面を切り開いて、火を入れる。
その映像を見て、ここの人たちがどれだけ山と戦ってきたかを知った。
「椎葉の神楽」はユネスコ無形文化遺産。
その舞の衣装や面が間近で見られる。
触れそうな距離に、本物がある。
館内は1時間あれば十分だけど、
気づいたら2時間いた。
それくらい引き込まれる場所だ。
入館料は大人300円。
向坂山|九州の屋根から、雲の上に出た
標高1684m。
九州脊梁山地の中でも、存在感のある山だ。
冬に登った。
それは完全に覚悟のいる選択だ。
麓から登り始めると、しばらくして霧が出てきた。
足元の雪がかちかちに凍っていて、
軽アイゼンを持ってきてよかった。
持ってなかったら確実に引き返している。
でも頂上に着いた瞬間、雲が切れた。
九州の山々が、全部見える。
そこだけ光が差していて、
言葉が出ない。
本当に、言葉が出ない。
「九州の屋根」という言葉の意味を、体で理解した瞬間だ。
冬の登山は装備必須。
スタートは早朝7時がおすすめ。
日が短いので、午後2時には下山を始めたい。
林道終点の登山口まで、村内から車で約50分かかる。
道が狭いので運転には注意が必要だ。